絵本のとびら(2)冬の絵本

冬の絵本

 読み聞かせアドバイザーの葛宮恵(かつみやめぐみ)です。
第2回目は冬に読みたい絵本のご紹介です。

 冬といえば、何を真っ先に思い浮かべますか?雪国育ちの私が思い浮かべるのはやはり「雪」です。

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『雪渡り』宮沢賢治・作/たかしたかこ・絵(1990年, 偕成社)

― 雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなり、空も冷たい滑らかな青い石の板で出来ているらしいのです。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」
お日様がまっ白に燃えて百合ゆりの匂においを撒まきちらし又また雪をぎらぎら照らしました。
木なんかみんなザラメを掛かけたように霜しもでぴかぴかしています。
「堅雪かんこ、凍しみ雪しんこ。」
四郎とかん子とは小さな雪沓をはいてキックキックキック、野原に出ました。
こんな面白い日が、またとあるでしょうか。いつもは歩けない黍の畑の中でも、すすきで一杯だった野原の上でも、すきな方へどこ迄でも行けるのです ―

 この体験ができるのは雪国に住むものの特権でしょうか。雪が降った翌朝、とてもとても寒くてよく晴れたときには、雪の表面が凍って硬くなり、雪の上をどこへでも歩いて行けるようになるのです。道路を通らずに田畑の上を歩いて行けるのです。行きたいところまで一直線!青空の下、太陽の光に雪がキラキラキラキラ輝いて、ため息が出るほどきれいなのです。子どもたちによく話していた、冬の日のお楽しみの日の話。

 子どもたちはこの絵本の言葉のリズムのよさで想像を楽しんでいたようです。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」
「キック、キック、トントン。キック、キック、トントン。」など、しばらくずっと歌っていました。子どもたちは、こういう歌があったり、リズムの良い擬音などが出てくる絵本が大好きです。

 英語版もありますよ。

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宮沢賢治・作/井堂雅夫・絵/カレン・コリガン=テーラー訳(2000年, サンマーク出版)

 さて次は

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『ゆきのひのゆうびんやさん』小出淡・文/小出保子・絵(1992年, 福音館書店)

 雪の中やってきた、風邪引きのゆうびんうさぎさんを自分たちの家で休ませて、かわりに配達に出かけるねずみたち。どんどん雪と風がひどくなりますが、がんばって最後まで届けようと…。

 ネズミたちの表情がとにかく可愛らしいのです。吹雪に立ち向かっていくときには目をギュッとつむりながら細く目を開け、暖かい部屋に戻ってきたときには、ほっとしたような顔をしています。読みながら子どもたちの顔を見ていると、ネズミたちと同じ表情をしているのです。吹雪の中を歩いたことがなくても、ネズミたちと同じ体験をしていたのでしょうね。そして配り終えた時の達成感もしっかりと感じ取っていたことでしょう。応援していたねずみたちが頑張りぬいてくれた喜びと、子どもたち自身も想像の中では一緒に頑張りぬいたという気持ちを共有してくれたのだと思います。

 『はるです はるのおおそうじ』『とてもとても あついひ』『とんとん とめてくださいな』と春夏秋冬4冊のシリーズです。どの本にも、相手の気持ちへのおもいやりが描かれていて、温かい気持ちになります。ねずみたちがとにかく可愛い。表情や背景など絵も細部にまでこだわって描かれているので、ページをめくるたびに感心することでしょう。おすすめのシリーズです。

 まだまだ、ご紹介したい雪の本はたくさんあります。図書館へ子どもたちと行って「今日は雪の絵本をどれだけ見つけられるかなあ?」と言ってみんなで集めてみるのも面白いですよ。そしてどれを借りていこうかみんなで決めるのです。「お正月」「冬の遊び」「おもち」などのテーマでやってみてもいいですね。もちろん家族の人数分の図書館カードを作っておけば、たくさん借りることができますからね。ご家族で、本の世界でも、冬を楽しんでくださいね。


プロフィール

読み聞かせアドバイザー 葛宮恵(かつみや めぐみ)

慶應義塾大学文学部を卒業。

自身の子どもたちに小学校卒業まで読み聞かせを続けるとともに、読み聞かせや紙芝居、パネルシアターなどの『かわいいおはなし会』を開催。 本の楽しさをたくさんの親子に伝えるために活動中。

 

連載 『絵本のとびら
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